分かってはいたけど、砂漠はつらい。昼間は暑くて死にそうになっていたかと思えば、夜は逆に寒くて死にそうになる。こっちの世界に閉じ込められて3日、早くもあたしはバテ気味だ。

 

「なんだよ。さっきから後ろで溜め息ばっかりついて。」

 

「別にぃ。」

 

ハイゼの言葉にだらけた声で返事をした。あたしは今砂漠のど真ん中、キャラバンに混じってハイゼと同じニロに乗ってる。ニロっていうのは馬やラクダと似た騎乗用のこっちの世界の動物。砂漠に適した動物だから、生態は少しラクダに似てるけれど、それよりも全体がシャープな感じで背中にコブはない。代わりに首がとても太くて、南米のアルパカやリャマに近いものがある。あたしは一人でニロに乗ることができないから、ハイゼの後ろに一緒に乗せてもらっているわけ。

 

「一日で何十度も気温が変わるのに、よく平気ねぇ。」

 

光姫はハイゼの背中にもたれかかって呟いた。

 

「別に普通だろ。お前の国は違うのか?」

 

「あたしのあたしの国は

 

実はまだ別の世界から来たことは言ってない。

 

「暑い日が何十日も続くと段々涼しくなって寒い日が続くようになるの。それがまた少しずつ暖かくなっていってまた暑い日になる。それの繰り返しよ。」

 

「へぇ、不思議なところですね。」

 

すぐ横を同じくニロに乗った少年が会話に入って来た。彼はアルフレッド。キャラバンの中で一番あたしと年が近い。性格もとても明るくて、同じクラスにこんな感じの男の子がいてもきっと違和感はないんだろうな。おかげで気兼ねなしに色々と教えてもらえる。他の人はといえば、やっぱり砂漠を横断する一団なだけあって屈強な男の人、とりわけ30〜40歳の人が多い。皆、自分より若いハイゼを御頭として仰いでる。ハイゼって一体何者?実はすごい人物だったりして。

 

「それがお前んとこの季節か。ここにもちゃんとあるぜ。」

 

あたしの思考を遮って、ハイゼは前を見据えたまま会話を繋げた。

 

「ここの季節は気温じゃなくて風向きが変わる。今は東から西へ風が吹く最後の月だ。もうすぐ西から風が吹くようになる。」

 

「それって季節風ね。」

 

だとしたら、この世界は元の世界の古代ペルシャや中央アジアと生活形態が似ているのかもしれない。そう考えると今自分のいるキャラバンのことが少し分かってくる。ハイゼの率いるこのキャラバンは全部で23人。対してニロは30頭強もいる。誰も騎乗していないニロは、その背中に荷物を沢山乗せたり荷車を引いたりしていて、東からの商品を西へ、西の商品を東へ運ぶ生活をしているんだ。<東から西に風が吹く最後の月>ってことは、今いるのは砂漠のより西側に近いところなのね。

 

 

 

 

「〜っ!!」

 

不意に熱風がまともに顔にあたる。暑いのか、それとも熱いのか、もう分からなくなってきていた。

 

「あつっ!」

 

光姫は手で顔をおさえると、ショールをより深く被り直した。それでも上から下から注ぐ熱線は光姫を休ませてくれない。皮膚はピリピリする、頭はぼんやり状態。現代っ子に砂漠は地獄。

 

「大丈夫か?俺に寄り掛かってろよ。」

 

「え?ううん、平気。」

 

辛い時に心配されると逆に突っ撥ねちゃう。これって人間の性。

 

「いいから。ちゃんと体を寄せてろ。風よけになるぞ。」

 

ハイゼは肩越しにこちらを見て光姫と目を合わせた。あぁ…うまいなハイゼは。そんな風にされたら素直にならざるを得ないじゃない。ううん、素直にしてくれたんだ。

 

ありがと。」

 

あたしはハイゼの背中に顔をうずめるように寄り掛かった。砂漠は暑い。だけどハイゼの纏う厚手のマント越しに感じる彼の体温は、心からあたしを安心させてくれた。

 

 

 

     

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