「カルラ!?」

光姫は名前を呼ぶけれど、次の瞬間にはカルラは二人の男の間に割って入り、左手と全身でそれぞれの長剣を止め、右手の短剣はしっかりとサイフェルトの首元に向けられていた。ハイゼの短刀はカルラの寸前で止められた。

「…何のつもりだ、カルラ。自分が何やってるか分かってんのか?」

「分かってるわ。」

カルラは静かにサイフェルトに答える。ハイゼは困惑の表情を浮かべながらも微動だにしなかった。

「こんなの無意味だよ。二人とも剣を納めなさい。」

「何が無意味だ?!ハイゼにミツキを素直に返せってか?」

サイフェルトはカルラにくってかかった。

「だって…本当は分かってるんでしょ?あたしたちじゃミツキを元の世界に帰してやれないって。」

「え?」

光姫が聞き返す。ハイゼが短剣を納めたため、カルラはハイゼの長剣だけを解放し、サイフェルトに向けられた短剣ももはや戦意を失っていた。

「あたしがこの盗賊団に入ったとき話したよね?出会いには意味があるんだって…だからあたしとサイが出会ったのにも何かしら意味があるんだって。ミツキも同じだよ。ミツキがルベンズに助けられたのにも意味があるんだよ。もしあたしたちがミツキを帰せるなら、ルベンズよりも先に会っていたはずでしょう?」

カルラの説得にサイフェルトは明らかに動揺している。慌てふためくというよりも、図星をつかれて反論できない様子だった。

「…じゃあ何で俺はミツキに会ったんだ…」

サイフェルトは小さく呟く。もう彼に戦意なんて微塵も感じない。

「それはきっとミツキが帰るための何かの力になれるからよ。」

カルラはサイフェルトの剣も放し、自らの短剣も腰に帯びた鞘に戻した。

 

 「カルラ…サイフェルト…」

光姫は戸惑いながらも走り寄った。周囲は非常に静かな憂いの空気に包まれていた。

「こっちじゃないでしょ。戻りな。」

カルラは優しく光姫の駆け寄る場所を否定した。

「お前…最初からこうするつもりだったのか?」

ハイゼがさりげなく光姫の後ろに回ってカルラに尋ねる。

「まさかサイがあのタイミングで来るとは思わなかったけどね。知ってたの?」

「いや…。」

サイフェルトは納剣しながら答える。

「カルラが警護の奴らを払っているのを見ておかしいと思っただけさ。裏口に来たのはたまたまだったけど。」

俯き加減のサイフェルトはどこか寂しげな少年のようだった。さっきまで火のように激しくいきり立った“お頭”だったのに。

「サイフェルト…ごめんなさい。でもあたしやっぱり戻りたかったの。」

おずおずと光姫が歩み出る。未だ瞳に涙を溜めたまま。

「分かってたよ。何とかしてやれると思ってたけど…お前の居場所はここじゃなかったんだな。」

サイフェルトは柔和な笑みで光姫を慰めた。その笑顔を見ているとますます罪悪感が募る。

「そんな顔しないでくれ、ミツキ。帰したくなくなる。それに俺たちに出会った意味があるなら、俺はそれを果たすつもりだから。」

「サイフェルト…」

サイフェルトは大きな手で光姫の手をとった。まるで年の離れた兄のように。

「あ…一つだけお願いがあるの。カルラのこと怒らないで、ね?」

「うーん…どうしよっかなぁ〜…。」

サイフェルトは冗談交じりに大袈裟に悩むフリをする。そして悪戯な満面の笑みで光姫に目線を合わせた。

「ヒメがチューしてくれたらいいよ♪」

「へ?」

光姫のとぼけた返事と同時にカルラのパンチとハイゼの蹴りが命中する。

「ったぁ〜…!!痛ぇな!冗談に決まってるだろ!!」

「いや…念のため。」

カルラが呆れた顔でこぶしを握ったままさらりと言ってのける。

「いや、まぁでも抱きしめるくらいならいいだろ?」

「サイ!」

カルラの戒めに対して一瞬後ろを向いて反論しようとしたサイフェルトに、光姫はまるで小さな子供が遊園地の着ぐるみに飛びつくように抱きついた。

「?!!」

光姫の思わぬ行動に驚いたサイフェルトは、自分で言ったにもかかわらずその光姫を満足に受け止めることができなかった。光姫はほんの少しの間抱きついただけですぐに離れたからだ。

「本当にありがとう、サイフェルト。」

「ミツキ…。」

初めて見る明るく微笑んだミツキにサイフェルトは見惚れていた。ミツキとの本当の出会いの意味が自分にあったならと思いながら。尤も、この後光姫に「もう一度♪」とねだったサイフェルトはもう一発カルラのパンチを食らうことになったのだが。

 

 

    

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