キャラバンが西海岸の町を後にして4日が経っていた。既にバザールをひとつやり過ごし、次なる場所に向けてキャラバンの全員が出発準備をしていた。海岸を折り返して光姫の仕事はいつの間にかアルフと共にニロの世話をすることが定着していた。一番商売に差し障りのない仕事だったし、何よりニロがよく懐く。アルフと同じようにニロに好かれる何かを光姫も持っていたのだろう。

 

光姫はここのところ不思議に思っていた。何となくキャラバン全体がピリピリしている。怒っているというよりは何かを警戒しているみたいな空気だった。だけど何に対して?

「アルフ…アルフ!」

砂漠の岩影での休憩中にあたしは小声でアルフを呼んだ。

「何ですか?」

アルフは片手に水の入ったコップを持って振り返った。

「この辺りって何かあるの?」

「何かって?」

「何だか西海岸を出てから空気が違うというか…警戒…してるでしょ?」

「そりゃまぁ…うん、してますね。」

アルフは言葉を濁して目線を外し、コップの水に口をつけた。

「また言えないこと?」

「う―ん…というか…」

ちらっとハイゼの方に目をやった。ハイゼはアルフの視線には気付いていない。

「ハイゼにはアルフから聞いたって言わないから、ね?」

「いや、別に口止めされてるわけじゃないんですよ。ただ御頭が話してないなら必要はないのかと思って…。でも教えておいた方がいいか。御頭には内緒にしてなくても大丈夫ですから。」

アルフはそういうとやや光姫の方に近寄った。

「実は海岸を出発したばかりのキャラバンは狙われやすいんです。」

コップで口を隠すようにアルフが小声で囁いた。やっと光姫に聞こえるぐらいの声で。

「狙われるって誰に?」

「…盗賊にです。」

「と、盗賊?」

光姫は顔をしかめた。よく聞く言葉でも実感はない。

「どんな大物の盗賊でも別の大陸の品欲しさに海岸に現れるなんてしません。それだけ警備が堅いし不利ですから。だから大陸からの品を満載したキャラバンを狙ってかすめるって訳ですよ。希少価値から言えばお金なんかよりずっと貴重ですからね。」

「それで…か。」

光姫は納得したように俯いた。

「大抵の盗賊はキャラバンの荷物を全部要求するので、もし負けてしまったらキャラバンは終わりです。そうやって壊滅してしまったという話はよく聞きます。特にこの辺りは岩影が多いから危険なんです。かといってここで休憩を取らないのも自殺行為だし…。御頭やバーディンさんなんか怖いくらいでしょう?」

「うん…。」

確かに今までの御頭モードとは異質だと感じていた。ここ何日かハイゼとは夜でもまともに話していなかった。

「そういう事ならアルフみたいに話しておいてくれるといいのに…」

「まぁでも御頭には何か考えがあるんでしょうね。あの人の行動に無意味って事はまずないですし、余計な心配させたくなかったんじゃないですか?ルベンズの襲撃防御率は他のキャラバンに比べて格段に高いんですよ。」

光姫の不満にアルフは困ったような笑みでなだめた。

「そうだね…。話してくれてありがとう、アルフ。立場が悪くならないといいんだけど…。」

「大丈夫ですよ。さ、そろそろ戻って。出発みたいですから。」

アルフに促されてあたしはハイゼの元へ小走りで戻った。

 

 

思えばこの時のあたしは何か自分にできることを必死になって探していた。どんな小さな事でもキャラバンのためになるなら何だってしたかった。ハイゼはそんなあたしを見て事情を話さなかったのかな…。

 

 

      

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