不意に西海岸の町の反対側から一つの照明弾が上がった。ぐんぐんと高度を上げ、パッと花が咲くように光り輝くと、そのまま上空で光を維持していた。それはルベンズの照明弾、アリアを助けた合図。ハイゼは振り向き光を確認するとニッと笑った。それだけですぐに何かが変わるわけではないけれど、それでもこの照明弾は突破口の一つになり得るものだった。ここでは全ての事に意味がある、それならアリアがこのタイミングで助けられた事にも何か意味があるはずだ。

 

 

 光が降り注いでる。目の前に黒幕が垂れ下がっているあたしにはその程度にしか分からない。吹き抜けの天窓から一つの明るい球体が見える。星でも月でもない、もしかして何かの合図なのかな?

おぉ!」

「あぁ!」

足下から感嘆と驚愕の声がする。何をそんなに驚いてるの?確かに夜にいきなり明るい光が見えるのは滅多にないだろうけど、別にそんなに驚く事でも

「?!」

あたしはその意味がやっと分かった。吹き抜けの側面の壁に赤い模様が映し出されていた。だけど見たことがある。あの模様、あたしの学校の校章だ。あたしが微かに動く、壁に映し出された校章も同じく動く。そうか光の反射だ。照明弾の光が天窓の凹レンズで集められてあたしに降り注ぎ、その光がちょうど胸のバッジに、そしてその中の校章を壁に映し出しているんだ。仕組みが分かれば何ということもないけど、このバッジに使われてる素材も技術もない中では異様に映る。金色の部分も赤い石の部分も本物なんて何一つない偽物だけど、それでも意味があったんだ。

 

 また拍手が吹き抜け内に響く。今度は礼儀的な拍手ではなく心のこもったものだった。これは上手くいったの?偶然でもアリアさんの代わりをまっとうできたの?そうだとしたら嬉しい、誇らしい。自然と安堵の笑みが浮かぶ。

「決まりですな。」

正面の東のセラが手を叩きながら進行役に頷く。光が弱まり壁面の校章は薄れて消えた。それに伴い喧騒も静まり、再び進行役の声だけが吹き抜けに響き始めた。

「では当初の選出通り、次期サガには西の

「待った!!!」

進行を遮りモニスがいきり立つ。さっきまでの余裕は見られない。何だかとてもマズい雰囲気だ

「その女、アリアではない!偽者だ!」

モニスがあたしを指差し大声で叫ぶ。あたしの体中の血が逆流したみたいに、ざわっと不穏に体が痺れた。階下のアスベラたちもどよめいている。

「何を言ってるんだ、北の方。私にはどう見てもアリア殿に見えるが思い違いでは?」

「若造は黙っておれ!今その正体を暴いてくれる!」

モニスは南のセラを一喝し、あたしを危険な目でキッと睨み付けた。あたしは数歩後退りした。しかし次の瞬間にはモニスが同じ台座の上に現れた。5メートル近くも離れたあたしの台座にどうやって乗り移ったのか分からないけど、一瞬白い光が見えた気がした魔方陣を使ったの?

「この汚らわしい娘が!」

突然近くに現れたモニスに驚いた瞬間には、あたしはモニスに髪飾りを思いっきり掴まれていた。

「痛!!」

髪もろとも引っ張られてあたしは小さく呻いた。必死になって髪飾りを取られまいと抵抗はしたけれど、モニスの力は尋常じゃない。憎しみが詰まった力を込めている。

 

 ハイゼはとっさに矢をつがえ弓を引いた。モニスに照準を合わせる。弦がキリキリと研ぎ澄まされた音を耳元で鳴らす。しかし矢を放つことはできない。ミツキとモニスが近すぎる。もし外れたらミツキに当たる。くそくそっ!!!ミツキ!!

「正体を現せ!!こいつめぇ!!!」

渾身の力でモニスに引っ張られて、とうとう髪飾りはあたしの頭から外れてしまった。それと同時に濃い茶色の長い髪がバサッと顕になる。髪飾りと一緒に髪留めも外れたんだ!しまった

「はっ!やはりな!欺けるとでも思ったか!」

モニスは勝ち誇ったようないやらしい笑みを浮かべた。あたしはついそんなモニスに弱気な顔を見せてしまった。振る舞いだけでも強気にと決めたのなら、この時だって揺るがずにいなければならなかったのに

 

 モニスが手を伸ばしてきた。危険を感じて尚も後退りするけれど、ここは狭い台座の上、逃げられる場所なんかない。まして唯一の逃げ場であるドアは、今はモニスの背後にある。あたしは背後に巨大な空虚を感じて振り向いた。もう台座のギリギリの位置だった。同時に頭に痛みを感じて体を引っ張られた。モニスがあたしの髪を思いっきり掴んでいた。

「う痛っ!!」

あたしは再度呻いた。髪の毛が抜けたら責任取ってくれるわけ?!

「見ろ!アスベラの方々!!この茶色の髪、どう見てもアリアではない!顔もだ!ほら跪いてよく見せるがいい!!」

モニスは髪を掴んだ手であたしを下へ押しやった。あたしはいやがおうにも四つん這いにならざるを得なかった。階下のアスベラ達が見える。10メートルくらいの高さは一番人間の恐怖を誘う。高所恐怖症ではないのだけど、目の前がぐらついて思わず顔を背けた。

「ほら、顔をよく見せんか!アスベラを欺いてただで済むと思うな!」

っ!」

今度はグイッと髪を引っ張られる。なんてなんて屈辱!絶対許さない!あたしは歯を食いしばって唇を噛んでぐっと耐えた。でもどうかハイゼ、この時だけはあたしを見ないで!こんな惨めで悔しい思い、生まれて初めてだ!

 

 

    

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