「俺の他にも何人か知ってる方がいいな。」
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あの後ハイゼはそう言った。その方が情報が集まりやすいからって。どうやらハイゼは何人かにそれとなく話したようで、後日ニロの上で誰に話したのかを教えてくれた。ハイゼに思い切って話した事は、結果的にはすごくいい方向に働いた。あたしが知らない理由、勘違いしていること、ちゃんと分かって教えてくれるし、周りのそれと知らない人達が不審に思わないようにフォローしてくれる。
「次の移動で大陸の西岸にでますよ。」
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次に着いたバザールでニロの世話をしながらアルフが言った。アルフもハイゼが事情を話したうちの一人。光姫とアルフは出会ってすぐ友人のように親しくなったからだ。
「西岸って海に出るの?」
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ニロ越しに聞き返す。
「そうですよ。海に面した町は大きいですから、何か知ってる人もいるかもしれませんね。なにより珍しいものが沢山ありますよ。」
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「あたしにとっては全部が珍しいわ。」
光姫はふふっと微笑んだ。この世界で見るアクセサリーは特に珍しくて好きだった。細かい装飾と天然石がはめ込まれた小さな金製品なんて、キャラバンの売り物だと分かっていても欲しくなる。
「ミツキさんも変わったブローチしてますよね。」
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「ん?これ?」
光姫はリボンを止めているバッジを指した。学校指定のバッジは学年色で赤・青・緑に分かれていて、よく見ると真ん中に校章が入っている。
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「これはここのと違って偽物よ。本当の金や石じゃないわ。」
「へぇ…ちょっと見せていただけません?」
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「いいわよ。」
光姫はバッジを外してアルフに渡した。
「わぁ…意外と軽いですね。確かに本物とは違いますけど…綺麗ですね。」
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アルフは日に透かせてみたり角度を変えたりしてバッジをよく観察している。
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「…ねぇ、アルフ。」
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「なんです?」
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アルフはバッジを光姫に返しながら応える。
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「なんであたしに敬語を使ってくれるの?」
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光姫はずっと気になっていた。ハイゼやバーディンは別として、アルフや他の人は光姫に丁寧な言葉で接していた。アルフだってキャラバンの人と話す時は、相手が年上でも砕けた話し方をしているのに。
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「別に普通に話してくれて構わないのに…。」
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「いや、それは…ダメですよ!」
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アルフは強く否定する。
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「オレだってまだ御頭に痛い目合わされたくないし…」
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ぼそぼそと言葉を濁した。
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「それってどういう…」
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自然と光姫の顔が熱くなる。
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「それはぁ……」
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アルフは語尾をのばしながら戸惑った。
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「いや、やっぱりやめます。この話はオレの独り言を聞いたってことに…」
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「それはいいけど…ずるいわ。せめてその後の独り言も聞いたってことにはならない?」
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「なりません。」
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アルフはにっこりと笑って誤魔化した。確かにハイゼから直接聞きたい事ではあるけど、やっぱり少しは知りたかったのにな。
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アルフは光姫には明かさなかったが、ハイゼの心情を垣間見ていた。ハイゼが光姫の事情を話していた時、ふと聞いたからだ。
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…「別の世界ですか。信じ難いですね。それが本当に有り得るんでしょうか?」
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「さぁな、だけどその方が辻褄が合う。」
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「確かに…。」
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二人の間の焚き火の薪がはぜる。
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「あの…こう言っては何ですけど、随分あの方に肩入れしてますよね。」
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アルフの言葉にハイゼがちらりと冷たい目を向ける。
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「あ、いや…言い方が悪かったですね。すみません、オレそういうつもりじゃなくて…」
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「肩入れ…か。やはりそう映るか…。」
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ハイゼはアルフから目線を外し、独り言のように呟く。アルフは慌てた体勢のままその様子を黙って見ていた。
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「全てのことに意味がある…だとしたら俺があいつにしていることにも何か意味があるのか?肩入れする…意味…。」
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ハイゼはふと我にかえると、アルフに他言を禁じてその場を去った。御頭のミツキさんに対する態度は恋愛感情ではないのだろうか…。いや、そんなはずはない。意味がどうとか言っていたけど、やはり何かが違う。御頭は女の人には大体優しいけど、ミツキさんは特別だって雰囲気で分かる。その人をぞんざいに扱ったら痛い目をみるってこと、みんな分かってるんだよ。だからさ、ミツキさん。
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