カイは辺りを見渡した。

「それじゃあ、ここが君たちが今住んでいる所なのか?」

改めて見た部屋の天井はひびがあらゆる方向に走っていて、今にも崩れてきそうである。確かに隠れ家としては最適かもしれないが、とても人が快適に過ごせる場所ではない。

「ここではありません。でもこの近くです。」

「ここよりもちょっとだけ新しいんだよ。」

ラルフは明言を避け、ケイルは自慢げにカイに言った。

「もうあたしたちのことは十分でしょ。今度はあんたが答える番よ。いったいどこから来て何が目的なの?」

ウィニーが厳しい口調で尋ねた。ウィニーは決して意地悪な子ではないのだが、自分と仲間達の保身のためにとる冷静な態度が、彼女に冷たい雰囲気を纏わせていた。

 

 カイは悩んでいた。本当のことを話すべきか否か、というよりもどこまで教えていいものかどうかと。この前ラナたちに話していたときとは違って、今は全く記憶がないわけではない。カイがここに来た理由は$「界を回って平和にしていくことそうハッキリしている。話すべきか話さざるべきか、カイは実のところ目が覚めて子供たちの姿を見たときからずっと考えていた。

「私はどこの国から来た、という訳ではないんだ。」

カイの呟いた言葉に、ケイルもラルフもウィニーでさえもきょとんとしていた。

「あ、じゃあ出身国はどこですか?」ラルフが尋ねた。

「君の教えてくれた4カ国のどこでもない。」

どんなに答えに窮する質問にも、カイは決して顔を下に向けなかった。

「僕知ってるよ。」

カイにずっと寄り添うようにしていたケイルが唐突に話し始めた。

「だって前にラルフとウィニーが教えてくれたもんね。テンゴクっていうところから来たんでしょ?」

ラルフとウィニーはその言葉を聞いて同じ反応を示した。ひどく驚いたという表情でもなければ、同意するという表情でもなく、何と言ったらいいのだろうか、強いて言うならば、近い過去の事柄をハッと思い出して≠サうかだとか≠竄ヘりだとかいう気持ちが自然に顔に表れたようだった。

「天国?」

カイを死んだ誰かと重ねているのだろうか。確かにケイルのカイへの懐きようは、初対面の相手に対するのとは少し違うように感じてはいたが。

「ケイル、その話はまた後でな。それより4カ国のどこでもないってどういうことですか?」

ラルフはカイが目が覚めてからこれまでに見た中で一番動揺していた。

「実は私にもよくわからないんだ。特にどうやってここまで来たのか全く見当がつかない。前にいた場所もよく覚えていない。だからここに来た目的も…。」

半分は本当で半分は嘘をついた。実際は前にいたところがどんなところか知っているし、目的もある程度知っている。

「リトリアから来たんならそれでもいいから本当の事を言ってよ!これじゃあんたを信じてあげられない!」

ウィニーは今にも泣きそうだった。他人をこの場所に連れてくる時点でかなり神経質になっていたのに、返ってきた答えが≠からないでは無理もない。ラルフは立ち上がってウィニーの肩を軽く叩いた。

「すまないが、私もこれ以上嘘をつくわけにはいかないんだ。ただ一つ言えるのは、リトリアに加担する気は全くないということだけだ。」

カイの言葉にラルフは少しの間何も言わなかった。ほんの数秒の間、風が壁を通り抜ける音とウィニーが小さくしゃくりあげるような声が聞こえるだけだった。

「わかりました。今はそれだけ分かれば十分です。人に話したくないことは誰にだってありますからね。」

ラルフは、カイがせめてもの報いに仄めかした半分の嘘の存在に気がついて、それを擁護するような皮肉するような言い方をした。

 

 

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