「ラナ!あの人はいたのか?」
呆然としたまま森を抜けると、ちょうどその場にいた叔父が話しかけてきた。
「行かなきゃならないところがあるからって・・・行っちゃった。」
ラナはうつむきながら言った。
「行っちゃったって、ずいぶん急だな。これから将軍のところに行かなきゃなんねぇのに・・・。」
「・・・そうだね。」
ラナの心は虚ろだった。悲しいとも寂しいともつかない不思議な気持ちがしていた。
「今から追いかけてったら間に合うかな?俺ぁあの人に・・・何だ、その・・・礼も言ってねぇしな。」
叔父は照れくさそうに言った。ラグが死んだとき、あんなにカイの事を嫌っていた叔父が、カイと和解したがっているのに、カイはもうこのセカイのどこにもいない。そう思うと、ラナの心は悲しい気持ちでいっぱいになった。
「あ、いたいた!」
「おーい!ラナーッ!」
双子の姉妹の底抜けに明るい声がした。
「カイさん、見つかった?」
姉のトマがラナに訊いた。ラナはただ首を横に振った。
「なんか用があるからって、どこか遠くに行っちまったとさ。まいったなぁ。将軍とあのじいさんがあの人に会いたがってたんだけどなぁ。」
叔父がラナに代わって姉妹に説明した。
「えー!そんなぁ・・・」
「せっかくカイさんと一緒に共和国とか王国とかに行きたかったのにねぇ。」
「そうそう。どっちもすごいお祭り騒ぎだもんね!」
「うんうん。おいしそうな匂いもしてるしね!」
「あ〜あ。カイさんと行きたかったなぁ。」
交互に喋っていた双子は最後に声を合わせて抗議した。
「うるせぇなぁ。行っちまったもんはしょうがねぇだろ。」
叔父は二人の声に少しウンザリしながら言った。
「とにかくだ。ラナ、俺達だけでも将軍のところに行かねぇとな。そろそろ約束の時間だし、あの人のことは直接説明してわかってもらうしかねぇよ。」
ラナは叔父の言葉に小さく頷いた。
「あ、じゃああたしたちも!あたしたち行きたいでーす!」
「カイさんの代わりに双子のキレイどころを!」
トマとトナは切り替えが素早い。嫌そうな顔をしている叔父を、二人がかりで言いくるめようとしている。
「わぁかったから!ちゃんと静かにしてろよ!おめぇたちの声は頭に響くんだ。」
遂に叔父が折れて、共和国の方へしぶしぶ歩いていった。双子は上機嫌でおしゃべりしながら叔父の後についていった。叔父が早く来るようにラナに呼びかけたが、ラナはその場から動こうとしなかった。そして一枚の青い葉を胸に抱き、空を仰いだ。
「カイ。いつかあなたが使命を果たせるように、このセカイがずっと平和であるよう頑張るわ。」
青い空がいつもより広く見えた。
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