「カイ!」

ラナが心配そうに近づいてきた。

「私に近づかないほうがいい・・・。」

未だ光り続けているカイの右腕は、周辺の石や瓦礫を次々と塵に変えていた。今この腕に触れたら、自分の意思に拘わらず人であろうと物であろうと消してしまうように思えた。しかし、カイの心には一縷の光もあった。

「少し・・・分かってきた・・・。」

カイは息も絶え絶えに呟いた。ラナは不安そうにカイを見ている。

「邪悪の樹・・・クリフォスの右腕・・・闇の象徴?」

記憶を推敲するように、カイは聞こえてきた単語を口に出してみた。

「十個の球体・・・クリファ?それぞれの意味・・・見出す、何を?世界の・・・姿?」

記憶の糸は少しずつ、しかし確実にカイの中で繋がっていった。完全でなくとも、昨日目覚めたときよりずっと近づいてきている、何かに。

「カイ?」

カイは顔を上げてラナを見た。汗がひとすじ顔を流れた。

「カイ、大丈夫?なんだか苦しそう・・・。」

「あ、ああ・・・大丈夫だ。」

カイは左手を顔に当て目を閉じた。カイと指揮官のやりとりの一部始終を見ていたラナは、それでも何も言わず、ただカイの側に寄り添うように座っていた。

「・・・まさかこんな事になるなんてね。」

ラナは変わり果てた自分の村を見渡しながら呟いた。何かを言いかけて、それをごまかすように。

「私のせいだ。どこかから監視されていないかと考えるべきだった。こんなはずではなかったのに・・・。」

右腕の光が消えたと同時に、後悔の念がカイに押し寄せた。守衛ではなかった。共和国の門をくぐるときに本当に注意すべきだったのは、王国からの監視の目だった。何故気が付かなかったのだろう。村を巻き込まないことが最優先だったのに。

「カイ・・・」

ラナはうなだれているカイの肩にそっと触れた。その時、森の北側から聞き覚えのある二つの声がした。

「ラナ!」

「カイさん!」

双子のトマとトナが木々の間から飛び出してきた。ラナは立ち上がって二人に駆け寄った。

「良かった。ここにいたのね!」と姉のトマ。

「ずっと探してたのよ!」妹のトナが言葉を続けた。

「みんなは?どこかに逃げたの?」

「森の北側よ。いつもの広場。」

ラナの質問にトマが答えた。少しだけ体力の回復したカイは、少女たちの輪に加わった。

「全員無事か?」

「それは・・・」

双子の姉妹はためらいながら顔を見合わせた。

「実はそのことで探してたの。ラナ、ちょっと来て。カイさんも。」

トマが珍しく一人だけで話した。

 姉妹の先導で初めて入った森の北側は、より深くより冷たい雰囲気だった。トマとトナは二人三脚でもしているかのように、ラナは落ち着かないようにせかせかと歩いた。きっとラナも感じているのだろう。カイと同じ嫌な予感を。

 

 

 

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